て高《たか》い処《ところ》の草《くさ》に隠《かく》れた。
暫《しばら》くすると見上《みあ》げるほどな辺《あたり》へ蝙蝠傘《かうもりがさ》の先《さき》が出《で》たが、木《き》の枝《えだ》とすれ/\になつて茂《しげみ》の中《なか》に見《み》えなくなつた。
(どッこいしよ、)と暢気《のんき》なかけ声《ごゑ》で、其《そ》の流《ながれ》の石《いし》の上《うへ》を飛々《とび/″\》に伝《つたは》つて来《き》たのは、呉座《ござ》の尻当《しりあて》をした、何《なん》にもつけない天秤棒《てんびんぼう》を片手《かたて》で担《かつ》いだ百姓《ひやくしやう》ぢや。」
第五
「前刻《さツき》の茶店《ちやみせ》から此処《こゝ》へ来《く》るまで、売薬《ばいやく》の外《ほか》は誰《たれ》にも逢《あ》はなんだことは申上《まをしあ》げるまでもない。
今《いま》別《わか》れ際《ぎは》に声《こゑ》を懸《か》けられたので、先方《むかう》は道中《だうちう》の商売人《しやうばいにん》と見《み》たゞけに、まさかと思《おも》つても気迷《きまよひ》がするので、今朝《けさ》も立《た》ちぎはによく見《み》て来《き》た、前《まへ》にも申《まを》す、其《そ》の図面《づめん》をな、此処《こゝ》でも開《あ》けて見《み》やうとして居《ゐ》た処《ところ》。
(一寸《ちよいと》伺《うかゞ》ひたう存《ぞん》じますが、)
(これは、何《なん》でござりまする、)と山国《やまぐに》の人《ひと》などは殊《こと》に出家《しゆつけ》と見《み》ると丁寧《ていねい》にいつてくれる。
(いえ、お伺《うかゞ》ひ申《まを》しますまでもございませんが、道《みち》は矢張《やツぱり》これを素直《まツすぐ》に参《まゐ》るのでございませうな。)
(松本《まつもと》へ行《ゆ》かつしやる? あゝ/\本道《ほんだう》ぢや、何《なに》ね、此間《こなひだ》の梅雨《つゆ》に水《みづ》が出《で》てとてつもない川《かは》さ出来《でき》たでがすよ。)
(未《ま》だずつと何処《どこ》までも此《この》水《みづ》でございませうか。)
(何《なん》のお前様《まへさま》、見《み》たばかりぢや、訳《わけ》はござりませぬ、水《みづ》になつたのは向《むか》ふの那《あ》の藪《やぶ》までゞ、後《あと》は矢張《やツぱり》これと同一《おんなじ》道筋《みちすぢ》で山《やま》までは荷車《
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