ケチ》で」は底本では「手巾《ハンケチ》て」]顔を隠した、その手巾が、もう附着《くッつ》いていて離れないんですって。……帯をしめるのにも。そうして手巾に(もよ)と紅糸《あかいと》で端縫《はしぬい》をしたのが、苦痛にゆがめて噛緊《かみし》める唇が映って透くようで、涙は雪が溶けるように、頸脚《えりあし》へまで落ちたと言います。」
「不可《いけな》い……」
 外套氏は、お町の顔に当てた手巾を慌《あわただ》しく手で払った。
 雨が激しく降って来た。
「……何とも申様がない……しかし、そこで鹿落の温泉へは、療治に行ったとでもいうわけかね。」
「湯治だなんのって、そんな怪我ではないのです。療治は疾《と》うに済んだんですが、何しろ大変な火傷《やけど》でしょう。ずッと親もとへ引込んでいたんですが、片親です、おふくろばかり――外へも出ません。私たちが行って逢う時も、目だけは無事だったそうですけれども、すみの目金をかけて、姉《ねえ》さんかぶりをして、口にはマスクを掛けて、御経を習っていました。お客から、つけ届けはちゃんとありますが、一度来るといって、一年たち三年たち、……もっとも、沸湯《にえゆ》を浴びた、そ
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