漆弓《しつきう》を潛《ひそ》め、霜《しも》は鏃《やじり》を研《と》ぐ。峻峰《しゆんぽう》皆《みな》將軍《しやうぐん》、磊嚴《らいがん》盡《こと/″\》く貔貅《ひきう》たり。然《しか》りとは雖《いへど》も、雁金《かりがね》の可懷《なつかしき》を射《い》ず、牡鹿《さをしか》の可哀《あはれ》を刺《さ》さず。兜《かぶと》は愛憐《あいれん》を籠《こ》め、鎧《よろひ》は情懷《じやうくわい》を抱《いだ》く。明星《みやうじやう》と、太白星《ゆふつゞ》と、すなはち其《そ》の意氣《いき》を照《て》らす時《とき》、何事《なにごと》ぞ、徒《いたづら》に銃聲《じうせい》あり。拙《つたな》き哉《かな》、驕奢《けうしや》の獵《れふ》、一鳥《いつてう》高《たか》く逸《いつ》して、谺《こだま》笑《わら》ふこと三度《みたび》。

      十二月《じふにぐわつ》

 大根《だいこん》の時雨《しぐれ》、干菜《ほしな》の風《かぜ》、鳶《とび》も烏《からす》も忙《せは》しき空《そら》を、行《ゆ》く雲《くも》のまゝに見《み》つゝ行《ゆ》けば、霜林《さうりん》一寺《いちじ》を抱《いだ》きて峯《みね》靜《しづか》に立《た》てるあり
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