いさぎよ》き素絹《そけん》を敷《し》きて、山姫《やまひめ》の來《きた》り描《ゑが》くを待《ま》つ處《ところ》――枝《えだ》すきたる柳《やなぎ》の中《なか》より、松《まつ》の蔦《つた》の梢《こずゑ》より、染《そ》め出《いだ》す秀嶽《しうがく》の第一峯《だいいつぽう》。其《そ》の山颪《やまおろし》里《さと》に來《きた》れば、色鳥《いろどり》群《む》れて瀧《たき》を渡《わた》る。うつくしきかな、羽《はね》、翼《つばさ》、霧《きり》を拂《はら》つて錦葉《もみぢ》に似《に》たり。

      十一月《じふいちぐわつ》

 青碧《せいへき》澄明《ちようめい》の天《てん》、雲端《うんたん》に古城《こじやう》あり、天守《てんしゆ》聳立《そばだ》てり。濠《ほり》の水《みづ》、菱《ひし》黒《くろ》く、石垣《いしがき》に蔦《つた》、紅《くれなゐ》を流《なが》す。木《こ》の葉《は》落《お》ち落《お》ちて森《もり》寂《しづか》に、風《かぜ》留《や》むで肅殺《しゆくさつ》の氣《き》の充《み》つる處《ところ》、枝《えだ》は朱槍《しゆさう》を横《よこた》へ、薄《すゝき》は白劍《はくけん》を伏《ふ》せ、徑《こみち》は
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