んだけれど……何《なん》にも彼《か》にも、一向要領を得ないんです、……時にだね、三輪《みい》ちゃん。」
とちと更《あらた》まって呼んだ時に、皆《みんな》が目を灌《そそ》ぐと、どの灯《あかり》か、仏壇に消忘れたようなのが幽《かすか》に入って、スーと民弥のその居直った姿を映す。……これは生帷《きびら》の五ツ紋に、白麻の襟を襲《かさ》ねて、袴《はかま》を着《ちゃく》でいた。――あたかもその日、繋《つな》がる縁者の葬式《とむらい》を見送って、その脚で廻ったそうで、時節柄の礼服で宵から同じ着附けが、この時際立って、一人、舞台へ出たように目に留まった。麻は冷たい、さっくりとして膚《はだ》にも着かず、肩肱《かたひじ》は凜々《りり》しく武張《ぶば》ったが、中背で痩《や》せたのが、薄ら寒そうな扮装《なり》、襟を引合わせているので物優しいのに、細面《ほそおもて》で色が白い。座中では男の中《うち》の第一《いっち》年下の二十七で、少々《わかわか》しいのも気の弱そうに見えるのが、今夜の会には打ってつけたような野辺送りの帰りと云う。
気のせいか、沈んで、悄《しお》れて見える処へ、打撞《ぶつ》かったその冷い紋着
前へ
次へ
全97ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング