こから改行天付き、折り返して1字下げ]
撫子 今日は――お客様がいらっしゃるッて事だから、籠も貸して頂けば、お庭の花まで御無心して、ほんとうに済みませんのね。
りく 内の背戸にありますと、ただの草ッ葉なんですけれど、奥さんがそうしてお活《い》けなさいますと、お祭礼《まつり》の時の余所行《よそゆき》のお曠衣《はれ》のように綺麗《きれい》ですわ。
撫子 この細《ほっそ》りした、(一輪を指《ゆびさ》す)絹糸のような白いのは、これは、何と云う名の菊なんですえ。
りく 何ですか、あの……糸咲《いとざき》々々ってお父《とっ》さんがそう云いますよ。
撫子 ああ、糸咲……の白菊……そうですか。
りく そして、あのその撫子はお活けなさいませんの。
撫子 おお、この花は撫子ですか。(手なる常夏を見る。)
りく ええ、返り咲の花なんですよ。枯れた薄《すすき》の根に咲いて、珍しいから、と内でそう申しましてね。
撫子 その返り咲が嬉《うれし》いから、どうせお流儀があるんじゃなし、綺麗でさえあれば可《い》い、去嫌《さりぎら》い構わずに、根〆《ねじめ》にしましょうと思ったけれど、白菊が糸咲で、私、常夏と覚えた花が、
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