な》されたやうに鳴く。
 その真黄な大きな目からは、玉のやうな涙がぽろ/\と溢《こぼ》れさうに見える。山懐《やまふところ》に抱かれた稚《おさな》い媛《ひめ》が、悪道士、邪仙人の魔法で呪はれでもしたやうで、血の牛肉どころか、吉野、竜田の、彩色の菓子、墨絵の落雁《らくがん》でも喙《ついば》みさうに、しをらしく、いた/\しい。
 ……その菓子の袋を添へて、駄賃を少々。特に、もとの山へ戻すやうに、と云つて、花屋の店へ返したが。――まつたく、木の葉草の花の精が顕はれたやうであつた。
 こゝに於て、蝶の宿《やどり》を、秋の草にきづかつたのを嘲《あざけ》らない。
「あゝ、ちら/\。」
 手にほごす葉を散つて、小さな白いものが飛んだ。障子をふつと潜《くぐ》りつゝ、きのふ今日蚊帳を除つた、薄掻巻《うすかいまき》の、袖に、裾に、ちら/\と舞ひまうたのは、それは綿よりも軽い蘆の穂であつた。
[#地付き](大正十三年十月)



底本:「花の名随筆10 十月の花」作品社
   1999(平成11)年9月10日初版第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二十七卷」岩波書店
   1942(昭和17)年10月
※底
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