は熊野平碓氷の山岨《やまそば》で刈りつゝ下枝を透かした時、昼の半輪の月を裏山の峰にして、ぽかんと留まつたのが、……其の木兎で。
若い衆が串戯《じようだん》に生捉《いけど》つた。
こんな事はいくらもある。
「洒落《しやれ》に持つてつて御覧なせえ。」と、花政の爺さんが景《けい》ぶつに寄越したのだと言ふのである。
げに人柄こそは思はるれ。……お嬢さん、奥方たち、婦人の風采《ふうさい》によつては、鶯、かなりや、……せめて頬白、※[#「けものへん+葛」、第3水準1−87−81]子鳥《あとり》ともあるべき処《ところ》を、よこすものが、木兎か。……あゝ人柄が思はれる。
が、秋日の縁側に、ふはりと懸り、背戸《せど》の草に浮上つて、傍に、其のもみぢに交る樫の枝に、団栗《どんぐり》の実の転げたのを見た時は、恰《あたか》も買つて来た草中から、ぽつと飛出したやうな思ひがした。
いき餌《え》だと言ふ。……牛肉を少々買つて、生々と差しつけては見たけれど、恁《こ》う、嘴《はし》を伏せ、翼《はね》をすぼめ、あとじさりに、目を据ゑつゝ、あはれに悄気《しよげ》て、ホ、と寂しく、ホと弱く、ポポーと真昼の夢に魘《う
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