り》を見るやうな、色も灯《とも》れて咲いて居た。
 遣水《やりみず》の音がする。……
 萩も芙蓉も、此の住居には頷かれるが、縁日の鉢植を移したり、植木屋の手に掛けたものとは思はれない。
「あれは何《ど》うしたのです。」
 と聞くと、お照さん――鏑木夫人――が、
「春ね、皆で玉川へ遊びに行きました時、――まだ何にも生えて居ない土を、一かけ持つて来たんですよ。」
 即ち名所の土の傀儡師《かいらいし》が、箱から気を咲かせた草の面影なのであつた。
 さら/\と風に露が散る。
 また遣水の音がした。
 金をかけて、茶座敷を営むより、此の思ひつき至つて妙、雅《が》にして而して優である。
 ……其の後、つくし、餅草摘みに、私たち玉川へ行つた時、真似して、土を、麹一枚ばかりと、折詰を包んだ風呂敷を一度ふるつては見たものの、土手にも畦にも河原にも、すく/\と皆気味の悪い小さな穴がある。――釣鐘草の咲く時分に、振袖の蛇体《じやたい》なら好《い》いとして、黄頷蛇《あおだいしよう》が、によろによろ、などは肝を冷《ひや》すと何だか手をつけかねた覚えがある。

「何を振廻はして居るんだな、早く水を入れて遣らないか
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