ンジンであるが、色も同じ桔梗を薄く絞つて、俯向《うつむ》けにつら/\と連《つらな》り咲く紫の風鈴草、或は曙《あけぼの》の釣鐘草と呼びたいやうな草の花など――皆、玉川の白露《しらつゆ》を鏤《ちりば》めたのを、――其の砧《きぬた》の里に実家のある、――町内の私のすぐ近所の白井氏に、殆ど毎年のやうに、土産にして頂戴する。
其年も初秋の初夜過ぎて、白井氏が玉川べりの実家へ出向いた帰りだと云って、――夕立が地雨に成つて、しと/\と降る中を、まだ寝ぬ門を訪れて、框《かまち》にしつとりと置いて、帰んなすつた。
慣れても、真新しい風情の中に、其の釣鐘草の交つたのが、わけて珍らしかつたのである。
鏑木清方《かぶらぎきよかた》さんが――まだ浜町に居る頃である。塵も置かない綺麗事の庭の小さな池の縁《ふち》に、手で一寸《ちよつと》劃《しき》られるばかりな土に、紅蓼《べにたで》、露草、蚊帳釣草、犬ぢやらしなんど、雑草なみに扱はるゝのが、野山|路《みち》、田舎の状《さま》を髣髴《ほうふつ》として、秋晴の薄日に乱れた中に、――其の釣鐘草が一茎、丈伸びて高く、すつと咲いて、たとへば月夜の村芝居に、青い幟《のぼ
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