《こしゃく》に障《さわ》ることばっかり陳《なら》べやがって、もうもうほんとに顔を見るのもいやなんだ。そのくせまた持ってるのだ! どうしたもんだろうなあ。ああ、窮った、窮った。やっぱり死ぬのか。死ぬのはいいが、それじゃどうも欣さんに義理が立たない。それが何より愁《つら》い! といって才覚のしようもなし。……」
陰々として鐘声の度《わた》るを聞けり。
「もう二時だ。はてなあ!」
白糸は思案に余って、歩むべき力も失せつ。われにもあらで身を靠《もた》せたるは、未央柳《びおうりゅう》の長く垂《た》れたる檜《ひのき》の板塀《いたべい》のもとなりき。
こはこれ、公園地内に六勝亭《ろくしょうてい》と呼べる席貸《せきが》しにて、主翁《あるじ》は富裕の隠居なれば、けっこう数寄《すき》を尽くして、営業のかたわらその老いを楽しむところなり。
白糸が佇《たたず》みたるは、その裏口の枝折《しおり》門の前なるが、いかにして忘れたりけむ、戸を鎖《さ》さでありければ、渠が靠《もた》るるとともに戸はおのずから内に啓《ひら》きて、吸い込むがごとく白糸を庭の内にぞ引き入れたる。
渠はしばらく惘然《ぼうぜん》として佇
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