れをもってせば欣弥|母子《おやこ》が半年の扶持に足るべしとて、渠は顰《ひそ》みたりし愁眉《しゅうび》を開けり。
 されども欣弥は実際半年間の仕送りを要せざるなり。
 渠の希望《のぞみ》はすでに手の達《とど》くばかりに近づきて、わずかにここ二、三箇月を支《ささ》うるを得ば足れり。無頓着《むとんじゃく》なる白糸はただその健康を尋ぬるのみに安んじて、あえてその成業の期を問わず、欣弥もまたあながちこれを告げんとは為《な》さざりき。その約に負《そむ》かざらんことを虞《おそ》るる者と、恩中に恩を顧みざる者とは、おのおのその務むべきところを務むるに専《もっぱら》なりき。
 かくて翌日まさに福井に向かいて発足すべき三日目の夜の興行を※[#「門<癸」、第3水準1−93−53]《お》わりたりしは、一時に垂《なんな》んとするころなりき。白昼《ひるま》を欺くばかりなりし公園内の万燈《まんどう》は全く消えて、雨催《あまもよい》の天《そら》に月はあれども、四面|※[#「さんずい+翁」、第4水準2−79−5]※[#「さんずい+孛」、49−15]《おうぼつ》として煙《けぶり》の布《し》くがごとく、淡墨《うすずみ》を流
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