こうもりがさ》で立ってるところは、憚《はばか》りながらこれ人間の女だ。しかも女の新造《しんぞ》だ。女の新造に違いはないが、今拝んだのと較《くら》べて、どうだい。まるでもって、くすぶって、なんといっていいか汚《よご》れ切っていらあ。あれでもおんなじ女だっさ、へん、聞いて呆《あき》れらい」
「おやおや、どうした大変なことを謂い出したぜ。しかし全くだよ。私もさ、今まではこう、ちょいとした女を見ると、ついそのなんだ。いっしょに歩くおまえにも、ずいぶん迷惑を懸けたっけが、今のを見てからもうもう胸がすっきりした。なんだかせいせいとする、以来女はふっつりだ」
「それじゃあ生涯《しょうがい》ありつけまいぜ。源吉とやら、みずからは、とあの姫様《ひいさま》が、言いそうもないからね」
「罰があたらあ、あてこともない」
「でも、あなたやあ、ときたらどうする」
「正直なところ、わっしは遁《に》げるよ」
「足下《そこ》もか」
「え、君は」
「私も遁げるよ」と目を合わせつ。しばらく言《ことば》途絶えたり。
「高峰、ちっと歩こうか」
 予は高峰とともに立ち上がりて、遠くかの壮佼《わかもの》を離れしとき、高峰はさも感じ
前へ 次へ
全19ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング