ことをしたぜなあ」
「そうさね、たまにゃおまえの謂うことを聞くもいいかな、浅草へ行ってここへ来なかったろうもんなら、拝まれるんじゃなかったっけ」
「なにしろ、三人とも揃ってらあ、どれが桃やら桜やらだ」
「一人は丸髷《まるまげ》じゃあないか」
「どのみちはや御相談になるんじゃなし、丸髷でも、束髪でも、ないししゃぐまでもなんでもいい」
「ところでと、あのふうじゃあ、ぜひ、高島田《ぶんきん》とくるところを、銀杏《いちょう》と出たなあどういう気だろう」
「銀杏、合点《がてん》がいかぬかい」
「ええ、わりい洒落《しゃれ》だ」
「なんでも、あなたがたがお忍びで、目立たぬようにという肚《はら》だ。ね、それ、まん中の水ぎわが立ってたろう。いま一人が影武者というのだ」
「そこでお召し物はなんと踏んだ」
「藤色と踏んだよ」
「え、藤色とばかりじゃ、本読みが納まらねえぜ。足下《そこ》のようでもないじゃないか」
「眩《まばゆ》くってうなだれたね、おのずと天窓《あたま》が上がらなかった」
「そこで帯から下へ目をつけたろう」
「ばかをいわっし、もったいない。見しやそれとも分かぬ間だったよ。ああ残り惜しい」
「あの
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