言《ことば》が一致して、裸体の白い娘でない、御供《ごく》を残して皈《かえ》ったのである。
 蒼《あお》ざめた小男は、第二の石段の上へ出た。沼の干《ひ》たような、自然の丘を繞《めぐ》らした、清らかな境内は、坂道の暗さに似ず、つらつらと濡れつつ薄明《うすあかる》い。
 右斜めに、鉾形《かまぼこがた》の杉の大樹の、森々《しんしん》と虚空に茂った中に社《やしろ》がある。――こっちから、もう謹慎の意を表する状《さま》に、ついた杖を地から挙げ、胸へ片手をつけた。が、左の手は、ぶらんと落ちて、草摺《くさずり》の断《たた》れたような襤褸《ぼろ》の袖の中に、肩から、ぐなりとそげている。これにこそ、わけがあろう。
 まず、聞け。――青苔《あおごけ》に沁《し》む風は、坂に草を吹靡《ふきなび》くより、おのずから静《しずか》ではあるが、階段に、緑に、堂のあたりに散った常盤木《ときわぎ》の落葉の乱れたのが、いま、そよとも動かない。

 のみならず。――すぐこの階《きざはし》のもとへ、灯ともしの翁《おきな》一人、立出《たちい》づるが、その油差の上に差置く、燈心が、その燈心が、入相すぐる夜嵐《よあらし》の、やがて、颯
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