《すそ》から雫が垂れるから、骨を絞る響《ひびき》であろう――傘の古骨が風に軋《きし》むように、啾々と不気味に聞こえる。
「しいッ、」
「やあ、」
しッ、しッ、しッ。
曳声《えいごえ》を揚げて……こっちは陽気だ。手頃な丸太棒《まるたんぼう》を差荷《さしにな》いに、漁夫《りょうし》の、半裸体の、がッしりした壮佼《わかもの》が二人、真中《まんなか》に一尾の大魚を釣るして来た。魚頭を鈎縄《かぎなわ》で、尾はほとんど地摺《じずれ》である。しかも、もりで撃った生々しい裂傷《さききず》の、肉のはぜて、真向《まっこう》、腮《あご》、鰭《ひれ》の下から、たらたらと流るる鮮血《なまち》が、雨路《あまみち》に滴って、草に赤い。
私は話の中のこの魚《うお》を写出すのに、出来ることなら小さな鯨と言いたかった。大鮪《おおまぐろ》か、鮫《さめ》、鱶《ふか》でないと、ちょっとその巨大《おおき》さと凄《すさま》じさが、真に迫らない気がする。――ほかに鮟鱇《あんこう》がある、それだと、ただその腹の膨れたのを観《み》るに過ぎぬ。実は石投魚《いしなぎ》である。大温にして小毒あり、というにつけても、普通、私どもの目に触れ
前へ
次へ
全43ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング