しゅ。――怨《うらみ》の的は、神職様――娘ども、夏帽子、その女房の三人でしゅが。」
「一通りは聞いた、ほ、そか、そか。……無理も道理も、老《おい》の一存にはならぬ事じゃ。いずれはお姫様に申上ぎょうが、こなた道理には外れたようじゃ、無理でのうもなかりそうに思われる、そのしかえし。お聞済みになろうか。むずかしいの。」
「御鎮守の姫様、おきき済みになりませぬと、目の前の仇《かたき》を視《み》ながら仕返しが出来んのでしゅ、出来んのでしゅが、わア、」
とたちまち声を上げて泣いたが、河童はすぐに泣くものか、知らず、駄々子《だだっこ》がものねだりする状《さま》であった。
「忰、忰……まだ早い……泣くな。」
と翁は、白く笑った。
「大慈大悲は仏菩薩《ぶつぼさつ》にこそおわすれ、この年老いた気の弱りに、毎度御意見は申すなれども、姫神、任侠《にんきょう》の御気風ましまし、ともあれ、先んじて、お袖に縋《すが》ったものの願い事を、お聞届けの模様がある。一たび取次いでおましょうぞ――えいとな。……
や、や、や、横扉から、はや、お縁へ。……これは、また、お軽々しい。」
廻廊の縁の角あたり、雲低き柳の帳《と
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