貝の穴に河童の居る事
泉鏡花
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)磯《いそ》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)皆|蟹《かに》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#天から4字下げ]ひょう、ひょう。
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雨を含んだ風がさっと吹いて、磯《いそ》の香が満ちている――今日は二時頃から、ずッぷりと、一降り降ったあとだから、この雲の累《かさな》った空合《そらあい》では、季節で蒸暑かりそうな処を、身に沁《し》みるほどに薄寒い。……
木の葉をこぼれる雫《しずく》も冷い。……糠雨《ぬかあめ》がまだ降っていようも知れぬ。時々ぽつりと来るのは――樹立《こだち》は暗いほどだけれど、その雫ばかりではなさそうで、鎮守の明神の石段は、わくら葉の散ったのが、一つ一つ皆|蟹《かに》になりそうに見えるまで、濡々と森の梢《こずえ》を潜《くぐ》って、直線に高い。その途中、処々夏草の茂りに蔽《おお》われたのに、雲の影が映って暗い。
縦横《たてよこ》に道は通ったが、段の下は、まだ苗代にならない水溜《みずたま》りの田と、荒れた畠《はたけ》だか
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