据える、生命《いのち》がけの事がありましてね、その事で、ちょっと、切ッつ、はッつもやりかねないといった勢《いきおい》で、だらしがないけども、私がさ、この稽古棒(よっかけて壁にあり)を槍《やり》、鉄棒《かなぼう》で、対手《あいて》方へ出向いたんでござんすがね、――入費《いりよう》はお師匠さん持だから、乗込みは、ついその銀座の西裏まで、円タクさ。
――呆《あき》れもしない、目ざす敵《かたき》は、喫茶店、カフェーなんだから、めぐり合うも捜すもない、すぐ目前《めのまえ》に顕《あら》われました。ところがさ、商売柄、ぴかぴかきらきらで、廓《くるわ》の張店《はりみせ》を硝子張《がらすばり》の、竜宮づくりで輝かそうていったのが、むかし六郷様の裏門へぶつかったほど、一棟、真暗《まっくら》じゃありませんか。拍子抜とも、間抜けとも。……お前さん、近所で聞くとね、これが何と……いかに業体《ぎょうてい》とは申せ、いたし方もこれあるべきを、裸で、小判、……いえさ、銀貨を、何とか、いうかどで……営業おさし留めなんだって。……
出がけの意気組が意気組だから、それなり皈《かえ》るのも詰りません。隙《ひま》はあるし、
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