開扉一妖帖
泉鏡花

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)仰向《あおむ》け

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)松村|信也《しんや》氏

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った
−−

 ただ仰向《あおむ》けに倒れなかったばかりだったそうである、松村|信也《しんや》氏――こう真面目《まじめ》に名のったのでは、この話の模様だと、御当人少々|極《きま》りが悪いかも知れない。信也氏は東――新聞、学芸部の記者である。
 何しろ……胸さきの苦しさに、ほとんど前後を忘じたが、あとで注意すると、環海ビルジング――帯暗|白堊《はくあ》、五階建の、ちょうど、昇って三階目、空に聳《そび》えた滑かに巨大なる巌《いわお》を、みしと切組んだようで、芬《ぷん》と湿りを帯びた階段を、その上へなお攀上《よじのぼ》ろうとする廊下であった。いうまでもないが、このビルジングを、礎《いしずえ》から貫いた階子《はしご》の、さながら只中
次へ
全49ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング