みで、本が読める。五経、文選《もんぜん》すらすらで、書がまた好《よ》い。一度|冥途《めいど》を※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]《さまよ》ってからは、仏教に親《したし》んで参禅もしたと聞く。――小母さんは寺子屋時代から、小僧の父親とは手習傍輩《てならいほうばい》で、そう毎々でもないが、時々は往来《ゆきき》をする。何ぞの用で、小僧も使いに遣《や》られて、煎餅《せんべい》も貰《もら》えば、小母さんの易をト《み》る七星を刺繍《ししゅう》した黒い幕を張った部屋も知っている、その往戻《ゆきもど》りから、フトこのかくれた小路をも覚えたのであった。
 この魔のような小母さんが、出口に控えているから、怪《あやし》い可恐《おそろし》いものが顕《あら》われようとも、それが、小母さんのお夥間《なかま》の気がするために、何となく心易《こころやす》くって、いつの間にか、小児《こども》の癖に、場所柄を、さして憚《はばか》らないでいたのである。が、学校をなまけて、不思議な木戸に、「かしほん」の庭を覗くのを、父親の傍輩に見つかったのは、天狗《てんぐ》に逢《あ》
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