子 人間にそれが分るか。
博士 心ないものには知れますまい。詩人、画家が、しかし認めますでございましょう。
公子 お前、私の悪意ある呪詛《のろい》でないのが知れたろう。
美女 (うなだる)お見棄《みすて》のう、幾久しく。
一同 ――万歳を申上げます。――
公子 皆、休息をなさい。(一同退場。)
[#ここから2字下げ]
公子、美女と手を携えて一歩す。美しき花降る。二歩す、フト立停《たちど》まる。三歩を動かす時、音楽聞ゆ。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
美女 一歩《ひとあし》に花が降り、二歩《ふたあし》には微妙の薫《かおり》、いま三あしめに、ひとりでに、楽しい音楽の聞えます。ここは極楽でございますか。
公子 ははは、そんな処と一所にされて堪《たま》るものか。おい、女の行《ゆ》く極楽に男は居らんぞ。(鎧《よろい》の結目《むすびめ》を解きかけて、音楽につれて徐《おもむ》ろに、やや、ななめに立ちつつ、その竜の爪を美女の背にかく。雪の振袖、紫の鱗の端に仄《ほのか》に見ゆ)男の行く極楽に女は居ない。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]――幕――

前へ 次へ
全63ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング