の崕《がけ》を累《かさ》ねた、漆のような波の間を、幽《かすか》に蒼《あお》い灯《ともしび》に照らされて、白馬の背に手綱《たづな》したは、この度迎え取るおもいものなんです。陸に獅子《しし》、虎の狙うと同一《おなじ》に、入道鰐《にゅうどうわに》、坊主鮫《ぼうずざめ》の一類が、美女と見れば、途中に襲撃《おそいう》って、黒髪を吸い、白き乳を裂き、美しい血を呑《の》もうとするから、守備のために旅行さきで、手にあり合せただけ、少数の黒潮騎士を附添わせた。渠等《かれら》は白刃《しらは》を揃えている。
博士 至極《しごく》のお計《はから》いに心得まするが。
公子 ところが、敵に備うるここの守備を出払わしたから不用心じゃ、危険であろう、と僧都が言われる。……それは恐れん、私が居れば仔細《しさい》ない。けれども、また、僧都の言われるには、白衣《びゃくえ》に緋《ひ》の襲《かさね》した女子《おなご》を馬に乗せて、黒髪を槍尖《やりさき》で縫ったのは、かの国で引廻しとか称《とな》えた罪人の姿に似ている、私の手許《てもと》に迎入るるものを、不祥《ふしょう》じゃ、忌《いま》わしいと言うのです。
事実不祥なれば、途中
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