かつお》、真那鰹《まながつお》、各《おのおの》一万本。大比目魚《おおひらめ》五千枚。鱚《きす》、魴※[#「魚+弗」、第3水準1−94−37]《ほうぼう》、鯒《こち》、※[#「魚+條」、第4水準2−93−74]身魚《あいなめ》、目張魚《めばる》、藻魚《もうお》、合せて七百|籠《かご》。若布《わかめ》のその幅六丈、長さ十五|尋《ひろ》のもの、百枚|一巻《ひとまき》九千連。鮟鱇《あんこう》五十袋。虎河豚《とらふぐ》一頭。大の鮹《たこ》一番《ひとつがい》。さて、別にまた、月の灘《なだ》の桃色の枝珊瑚一株、丈八尺。(この分、手にて仕方す)周囲《まわり》三抱《みかかえ》の分にござりまして。ええ、月の真珠、花の真珠、雪の真珠、いずれも一寸の珠《たま》三十三|粒《りゅう》、八分の珠百五粒、紅宝玉三十|顆《か》、大《おおき》さ鶴の卵、粒を揃えて、これは碧瑪瑙《あおめのう》の盆に装《かざ》り、緑宝玉、三百顆、孔雀《くじゃく》の尾の渦巻の数に合せ、紫の瑠璃《るり》の台、五色に透いて輝きまする鰐《わに》の皮三十六枚、沙金《さきん》の包《つつみ》七十|袋《たい》。量目《はかりめ》約百万両。閻浮檀金《えんぶだごん》十斤也。緞子《どんす》、縮緬《ちりめん》、綾《あや》、錦《にしき》、牡丹《ぼたん》、芍薬《しゃくやく》、菊の花、黄金色《こんじき》の董《すみれ》、銀覆輪《ぎんぷくりん》の、月草、露草。
侍女一 もしもし、唯今《ただいま》のそれは、あの、残らず、そのお娘御《むすめご》の身の代《しろ》とかにお遣わしの分なのでございますか。
僧都 残らず身の代と?……はあ、いかさまな。(心付く)不重宝《ぶちょうほう》。これはこれは海松《みる》ふさの袖に記して覚えのまま、潮《うしお》に乗って、颯《さっ》と読流しました。はて、何から申した事やら、品目の多い処へ、数々ゆえに。ええええ、真鯛大小八千枚。
侍女一 鰤、鮪ともに二万疋。鰹、真那鰹|各《おのおの》一万本。
侍女二 (僧都の前にあり)大比目魚五千枚。鱚、魴※[#「魚+弗」、第3水準1−94−37]、鯒、あいなめ、目ばる、藻魚の類合せて七百籠。
侍女三 (公子の背後にあり)若布のその幅六丈、長さ十五尋のもの百枚|一巻《ひとまき》九千連。
侍女四 (同じく公子の背後に)鮟鱇五十袋、虎河豚一頭、大の鮹|一番《ひとつがい》。まあ……(笑う。侍女皆笑う。)
僧都 (額の汗を拭《ふ》く)それそれさよう、さよう。
公子 (微笑しつつ)笑うな、老人は真面目《まじめ》でいる。
侍女五 (最も少《わか》し。斉《ひと》しく公子の背後に附添う。派手に美《うるわ》しき声す)月の灘の桃色の枝珊瑚樹、対《つい》の一株、丈八尺、周囲《まわり》三抱《みかかえ》の分。一寸の玉三十三粒……雪の真珠、花の真珠。
侍女一 月の真珠。
僧都 しばらく。までじゃまでじゃ、までにござる。……桃色の枝珊瑚樹、丈八尺、周囲三抱の分までにござった。(公子に)鶴の卵ほどの紅宝玉、孔雀の渦巻の緑宝玉、青瑪瑙の盆、紫の瑠璃の台。この分は、天なる(仰いで礼拝す)月宮殿に貢《みつぎ》のものにござりました。
公子 私もそうらしく思って聞いた。僧都、それから後に言われた、その董、露草などは、金銀宝玉の類は云うまでもない、魚類ほどにも、人間が珍重しないものと聞く。が、同じく、あの方《かた》へ遣わしたものか。
僧都 綾、錦、牡丹、芍薬、縺《もつ》れも散りもいたしませぬを、老人の申条《もうしじょう》、はや、また海松《みる》のように乱れました。ええええ、その董、露草は、若様、この度の御旅行につき、白雪《はくせつ》の竜馬《りゅうめ》にめされ、渚《なぎさ》を掛けて浦づたい、朝夕の、茜《あかね》、紫、雲の上を山の峰へお潜《しの》びにてお出ましの節、珍しくお手に入《い》りましたを、御姉君《おんあねぎみ》、乙姫《おとひめ》様へ御進物の分でござりました。
侍女一 姫様は、閻浮檀金《えんぶだごん》の一輪挿《いちりんざし》に、真珠の露でお活《い》け遊ばし、お手許《てもと》をお離しなさいませぬそうにございます。
公子 度々は手に入らない。私も大方、姉上に進《あ》げたその事であろうと思った。
僧都 御意。娘の親へ遣わしましたは、真鯛より数えまして、珊瑚一対……までに止《とど》まりました。
侍女二 海では何ほどの事でもございませんが、受取ります陸《おか》の人には、鯛も比目魚も千と万、少ない数ではございますまいに、僅《わずか》な日の間に、ようお手廻し、お遣わしになりましてございます。
僧都 さればその事。一国、一島、津や浦の果《はて》から果を一網《ひとあみ》にもせい、人間|夥間《なかま》が、大海原《おおうなばら》から取入れます獲《え》ものというは、貝に溜《たま》った雫《しずく》ほどにいささかなものでござっての、お
前へ 次へ
全16ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング