さ》った。――杉垣の破目《われめ》へ引込むのに、かさかさと帯の鳴るのが浅間《あさま》しかったのである。
気咎《きとが》めに、二日ばかり、手繰り寄せらるる思いをしながら、あえて行《ゆ》くのを憚《はばか》ったが――また不思議に北国《ほっこく》にも日和が続いた――三日めの同じ頃、魂がふッと墓を抜けて出ると、向うの桃に影もない。……
勿体なくも、路々《みちみち》拝んだ仏神の御名《みな》を忘れようとした処へ――花の梢が、低く靉靆《たなび》く……藁屋はずれに黒髪が見え、すらりと肩が浮いて、俯向《うつむ》いて出たその娘が、桃に立ちざまに、目を涼しく、と小戻《こもどり》をしようとして、幹がくれに密《そ》と覗いて、此方《こなた》をば熟《じっ》と視《み》る時、俯目《ふしめ》になった。
思わず、そのとき渠《かれ》は蹲《しゃが》んだ、そして煙草《たばこ》を喫《の》んだ形は、――ここに人待石の松蔭と同じである――
が、姿も見ないで、横を向きながら、二服とは喫みも得ないで、慌《あわただ》しげにまた立つと、精々落着いて其方《そなた》に歩んだ。畠を、ややめぐり足に、近づいた時であった。
娘が、柔順《すなお》
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