《そぐ》わないのは、東京のなにがし工業学校の金色の徽章《きしょう》のついた制帽で、巻莨《まきたばこ》ならまだしも、喫《の》んでいるのが刻煙草《きざみ》である。
場所は、言った通り、城下から海岸の港へ通る二里余りの並木の途中、ちょうど真中処《まんなかどころ》に、昔から伝説を持った大《おおき》な一面の石がある――義経記《ぎけいき》に、……
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加賀国|富樫《とがし》と言う所も近くなり、富樫の介《すけ》と申すは当国の大名なり、鎌倉|殿《どの》より仰《おおせ》は蒙《こうむ》らねども、内々用心して判官殿《ほうがんどの》を待奉《まちたてまつ》るとぞ聞えける。武蔵坊《むさしぼう》申しけるは、君はこれより宮の越《こし》へ渡らせおわしませ――
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とある……金石《かないわ》の港で、すなわち、旧《もと》の名|宮《みや》の越《こし》である。
真偽のほどは知らないが、おなじ城下を東へ寄った隣国へ越《こえ》る山の尾根の談義所村というのに、富樫があとを追って、つくり山伏の一行に杯を勧めた時、武蔵坊が鳴るは滝の水、日は照れども絶えずと、謡《うた》ったと伝うる(鳴《なる》
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