のが止《や》みましたっけ。根雪に残るのじゃあございません、ほんの前触れで、一きよめ白くしましたので、ぼっとほの白く、薄鼠に、梟の頂が暗夜《やみ》に浮いて見えました。
 苦しい時ばかりじゃあねえ。こんな時も神頼み、で、私《わっし》は崖縁《がけぶち》をひょいと横へ切れて、のしこと地蔵様の背後《うしろ》に蹲《しゃが》み込んで覗《のぞ》いたんで。石像のお袈裟《けさ》の前へは、真白《まっしろ》に吹掛けましたが、うしろは苔《こけ》のお法衣《ころも》のまま真黒《まっくろ》で、お顔が青うございましたよ。
 大方いまの雪のために、先生も、客人も、天幕に引籠《ひきこも》ったんでございましょう。卓子《テエブル》ばかりで影もない。野天のその卓子が、雪で、それ大理石。――立派やかなお座敷にも似合わねえ、安火鉢の曲《ゆが》んだやつが転がるように出ていました。
 その火鉢へ、二人が炬火《たいまつ》をさし込みましたわ。一ふさり臥《ふさ》って、柱のように根を持って、赫《かっ》と燃えます。その灯《あかり》で、早や出端《でばな》に立って出かかった先生方、左右の形は、天幕がそのままの巌石《がんせき》で、言わねえ事じゃあねえ、
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