、ずかずかと天幕を出ました。
それ、卓子《テエブル》を中に、控えて、開いて、屹《きっ》と向合ったと思召せ。
少《わか》い紳士《だんな》が慇懃《いんぎん》に、
(失礼ですが、立野竜三郎氏でいらっしゃいますか。)
(さよう、お尋ねを蒙《こうむ》りました竜三郎、私《わたくし》であります。)
(申しおくれました、私は村上|八百次郎《やおじろう》と申すものです。はじめてお目にかかります……唯今、名刺を。)
(いや。)
と先生、卓子の上へ両手をずかと支《つ》いて、
(三年|前《ぜん》から、御尊名は、片時といえども相忘れません、出過ぎましたが、ほぼ、御訪問[#「訪問」は底本では「訪門」]に預りました御用向《ごようむき》も存じております。)
と、少《わか》いのが少し屹《きっ》となって、
(用向を御存じですか?)
(まず、お掛け下さい。)
と先生は、ドカリと野天の椅子に掛けた。
何となく気色ばんだ双方の意気込が、殺気を帯びて四辺《あたり》を払った。この体《てい》を視た私《わっし》だ。むかし物語によくあります、峰の堂、山の祠《ほこら》で、怪しく凄《すご》い神たちが、神つどいにつどわせたという場
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