るのかちっとも分らないで、ざあざあッて流れてる川の音とおんなしで、僕分りませんもの。それから僕の内の橋の下を、あのウ舟|漕《こ》いで行《ゆ》くのが何だか唄って行《ゆ》くけれど、何をいうんだかやっぱり鳥が声を大きくして長く引《ひっ》ぱって鳴いてるのと違いませんもの。ずッと川下の方で、ほうほうッて呼んでるのは、あれは、あの、人なんか、犬なんか、分りませんもの。雀だって、四十雀《しじゅうから》だって、軒だの、榎だのに留《とま》ってないで、僕と一所に坐って話したら皆《みんな》分るんだけれど、離れてるから聞えませんの。だって、ソッとそばへ行って、僕、お談話しようと思うと、皆立っていってしまいますもの、でも、いまに大人になると、遠くで居ても分りますッて。小さい耳だから、沢山いろんな声が入らないのだって、母様が僕、あかさん[#「あかさん」に傍点]であった時分からいいました。犬も猫も人間もおんなじだって。ねえ、母様、だねえ母様、いまに皆分るんだね。」
三
母様《おっかさん》は莞爾《にっこり》なすって、
「ああ、それで何かい、先生が腹をお立ちのかい。」
そればかりではなかった、私
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