々《さんざ》慰《なぐさ》んで、そら菓子をやるワ、蜜柑《みかん》を投げろ、餅《もち》をたべさすわって、皆《みんな》でどっさり猿に御馳走《ごちそう》をして、暗くなるとどやどやいっちまったんだ。で、じいさんをいたわってやったものは、ただの一|人《にん》もなかったといいます。
あわれだとお思いなすって、母様がお銭《あし》を恵んで、肩掛《ショオル》を着せておやんなすったら、じいさん涙を落して拝んで喜びましたって、そうして、
(ああ、奥様、私《わたくし》は獣《けだもの》になりとうございます。あいら、皆《みんな》畜生で、この猿めが夥間《なかま》でござりましょう。それで、手前達の同類にものをくわせながら、人間一|疋《ぴき》の私《わたくし》には目を懸けぬのでござります。)とそういってあたりを睨《にら》んだ、恐らくこのじいさんなら分るであろう、いや、分るまでもない、人が獣《けだもの》であることをいわないでも知っていようと、そういって、母様がお聞かせなすった。
うまいこと知ってるな、じいさん。じいさんと母様と私と三人だ。その時じいさんがそのまんまで控綱《ひかえづな》をそこン処《とこ》の棒杭《ぼうぐい》に
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