なすつたが、これは私《わたし》の悪戯《いたづら》をして、母様《おつかさん》のおつしやること肯《き》かない時《とき》、ちつとも叱《しか》らないで、恐《こは》い顔《かほ》しないで、莞爾《につこり》笑《わら》つてお見《み》せの、其《それ》とかはらなかつた。
さうだ。先生《せんせい》の怒《おこ》つたのはそれに違《ちが》ひない。
「だつて、虚言《うそ》をいつちやあなりませんつて、さういつでも先生《せんせい》はいふ癖《くせ》になあ、ほんとう[#「とう」に「ママ」の注記]に僕《ぼく》、花《はな》の方《はう》がきれいだと思《おも》ふもの。ね、母様《おつかさん》、あのお邸《やしき》の坊《ぼつ》ちん[#「ちん」に「ママ」の注記]の青《あを》だの、紫《むらさき》だの交《まじ》つた、着物《きもの》より、花《はな》の方《はう》がうつくしいつて、さういふのね。だもの、先生《せんせい》なんざ。」
「あれ、だつてもね、そんなこと人《ひと》の前《まへ》でいふのではありません。お前《まへ》と、母様《おつかさん》のほかには、こんないゝこと知《し》つてるものはないのだから、分《わか》らない人《ひと》にそんなこといふと、怒《お
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