お君の寂しく莞爾《にっこり》した時、寂寞《じゃくまく》とした位牌堂の中で、カタリと音。
目を上げて見ると、見渡す限り、山はその戸帳《とばり》のような色になった。が、やや艶《つや》やかに見えたのは雨が晴れた薄月の影である。
遠くで梟が啼《な》いた。
謙造は、その声に、額堂の絵を思出した、けれども、自分で頭《かぶり》をふって、斉《ひと》しく莞爾《にっこり》した。
その時何となく机の向が、かわった。
襖がすらりとあいたようだから、振返えると、あらず、仁右衛門の居室《いま》は閉《しま》ったままで、ただほのかに見える散《こぼ》れ松葉のその模様が、懐《なつか》しい百人一首の表紙に見えた。
[#地から1字上げ](明治四十年一月)
底本:「ちくま日本文学全集 泉鏡花」筑摩書房
1991(平成3年)10月20日初版発行
1995(平成7年)8月15日第2刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第十一卷」岩波書店
入力:牡蠣右衛門
校正:門田 裕志
2001年10月19日公開
2005年11月25日修正
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