》なく白粉を塗りつつ居たのは言うまでもなかろう。
――小一按摩のちびな形が、現に、夜泣松の枝の下へ、仮装の一個《ひとつ》として顕《あらわ》れている――
按摩の謙斎が、療治しつつ欣七郎に話したのは――その夜、食後の事なのであった。
三
「半助さん、半助さん。」
すらすらと、井菊の広い帳場の障子へ、姿を見せたのはお桂さんである。
あの奥の、花の座敷から来た途中は――この家《や》での北国だという――雪の廊下を通った事は言うまでもない。
カチリ……
ハッと手を挙げて、珊瑚《さんご》の六分珠《ろくぶだま》をおさえながら、思わず膠《にかわ》についたように、足首からむずむずして、爪立ったなり小褄《こづま》を取って上げたのは、謙斎の話の舌とともに、蛞蝓《なめくじ》のあとを踏んだからで、スリッパを脱ぎ放しに釘でつけて、身ぶるいをして衝《つ》と抜いた。湯殿から蒸しかかる暖い霧も、そこで、さっと肩に消えて、池の欄干を伝う、緋鯉《ひごい》の鰭《ひれ》のこぼれかかる真白《まっしろ》な足袋はだしは、素足よりなお冷い。で……霞へ渡る反橋《そりばし》を視《み》れば、そこへ島田に結った初々
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