に、しょんぼりと踞《かが》んでおります。そのむくみ加減といい、瓢箪頭のひしゃげました工合《ぐあい》、肩つき、そっくり正《しょう》のものそのままだと申すことで……現に、それ。」
「ええ。」
 お桂もぞッとしたように振向いて肩をすぼめた。
「わしどもが、こちらへ伺います途中でも、もの好きなのは、見て来た、見に行くと、高声で往来が騒いでいました。」

 謙斎のこの話の緒《いとぐち》も、はじめは、その事からはじまった。
 それ、谿川《たにがわ》の瀬、池水の調べに通《かよ》って、チャンチキ、チャンチキ、鉦入《かねい》りに、笛の音、太鼓の響《ひびき》が、流れつ、堰《せ》かれつ、星の静《しずか》な夜《よ》に、波を打って、手に取るごとく聞えよう。
 実は、この温泉の村に、新《あらた》に町制が敷かれたのと、山手《やまのて》に遊園地が出来たのと、名所に石の橋が竣成したのと、橋の欄干に、花電燈が点《つ》いたのと、従って景気が可《よ》いのと、儲《もうか》るのと、ただその一つさえ祭の太鼓は賑《にぎわ》うべき処に、繁昌《はんじょう》が合奏《オオケストラ》を演《や》るのであるから、鉦は鳴す、笛は吹く、続いて踊らずに
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