》い。……翌朝、気をつけて御覧なさると、欄干が取附けてござります、巌組《いわぐみ》へ、池から水の落口の、きれいな小砂利の上に、巌の根に留まって、きらきら水が光って、もし、小雨のようにさします朝晴の日の影に、あたりの小砂利は五色《ごしき》に見えます。これは、その簪の橘《たちばな》が蘂《しべ》に抱きました、真珠の威勢かにも申しますな。水は浅し、拾うのに仔細《しさい》なかったでございますれども、御老体が飛んだ苦労をなさいましたのは……夜具部屋から、膠々《にちゃにちゃ》粘々を筋を引いて、時なりませぬ蛞蝓《なめくじ》の大きなのが一匹……ずるずるとあとを輪取って、舐廻《なめまわ》って、ちょうど簪の見当の欄干の裏へ這込《はいこ》んだのが、屈んだ鼻のさきに見えました。――これには難儀をなすったげで。はい、もっとも、簪がお娘ごのお髪《ぐし》へ戻りましたについては、御老体から、大島屋のお上さんに、その辺のな、もし、従って、小按摩もそれとなくお遠ざけになったに相違ござりません、さ、さ、この上方の御仁《ごじん》でござりますよ。――あくる晩の夜ふけに、提灯を持った小按摩を見て、お煩いなさったのは。――御老体にし
前へ
次へ
全48ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング