は、各自《てんでん》に、ちやるめらを吹く、さゝらを摺《す》る、鈴《ベル》を鳴らしたり、小太鼓を打つたり、宛然《まるで》お神楽《かぐら》のやうなんですがね、家《うち》が大《おおき》いから、遠くに聞えて、夜中の、あの魔もののお囃子《はやし》見たやうよ、……そして車に着いた商人《あきんど》の、一人々々、穂長《ほなが》の槍《やり》を支《つ》いたり、担《かつ》いだりして行《ゆ》く形が、ぞろ/\影のやうに黒いのに、椰子《やし》の樹《き》の茂つた上へ、どんよりと黄色に出た、月の明《あかり》で、白刃《しらは》ばかりが、閃々《ぴかぴか》、と稲妻《いなずま》のやうに行交《ゆきか》はす。
 其の向うは、鰐《わに》の泳ぐ、可恐《おそろし》い大河《おおかわ》よ。……水上《みなかみ》は幾千里《いくせんり》だか分らない、天竺《てんじく》のね、流沙河《りゅうさがわ》の末《すえ》だとさ、河幅が三里の上、深さは何百尋《なんびゃくひろ》か分りません。
 船のある事……帆柱《ほぼしら》に巻着《まきつ》いた赤い雲は、夕日の余波《なごり》で、鰐の口へ血の晩御飯を注込《つぎこ》むんだわね。
 時は十二月なんだけれど、五月のお節句の
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