云つたら、」
と、息切れのする瞼《まぶた》が颯《さっ》と、気を込めた手に力が入つて、鸚鵡の胸を圧《お》したと思ふ、嘴《くちばし》を※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いて開《あ》けて、カツキと噛《か》んだ小指の一節《ひとふし》。
「あ、」と離すと、爪を袖口《そでぐち》に縋《すが》りながら、胸毛《むなげ》を倒《さかさ》に仰向《あおむ》きかゝつた、鸚鵡の翼に、垂々《たらたら》と鮮血《からくれない》。振離《ふりはな》すと、床《ゆか》まで落ちず、宙ではらりと、影を乱して、黒棚《くろだな》に、バツと乗る、と驚駭《おどろき》に衝《つ》と退《すさ》つて、夫人がひたと遁構《にげがま》への扉《ひらき》に凭《もた》れた時であつた。
呀《や》!西瓜《すいか》は投げぬが、がつくり動いて、ベツカツコ、と目を剥《む》く拍子に、前へのめらうとした黒人《くろんぼ》の其の土人形《つちにんぎょう》が、勢《いきおい》余つて、どたりと仰状《のけざま》。ト木彫のあの、和蘭陀《オランダ》靴は、スポンと裏を見せて引顛返《ひっくりかえ》る。……煽《あおり》をくつて、論語は、ばら/\と暖炉に映つて、赫《かっ》と朱
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