の海へ、ぶく/\と出たんだとさ……可哀相ねえ。
まだ可哀《あわれ》なのはね、一所《いっしょ》に連廻《つれま》はられた黒女《くろめ》なのよ。又何とか云ふ可恐《おそろし》い島でね、人が死ぬ、と家属《かぞく》のものが、其の首は大事に蔵《しま》つて、他人の首を活《い》きながら切つて、死人の首へ継合《つぎあ》はせて、其を埋《うず》めると云ふ習慣《ならわし》があつて、工面《くめん》のいゝのは、平常《ふだん》から首代《くびしろ》の人間を放飼《はなしがい》に飼つて置く。日本ぢや身がはりの首と云ふ武士道とかがあつたけれど、其の島ぢや遁《に》げると不可《いけな》いからつて、足を縛つて、首から掛けて、股《また》の間《あいだ》へ鉄の分銅《ふんどう》を釣《つ》るんだつて……其処《そこ》へ、あの、黒い、乳の膨れた女は買はれたんだよ。
孫一は、天の助けか、其の土地では売れなくつて――とう/\蕃蛇剌馬《ばんじゃらあまん》で方《かた》が附いた――
と云ふ訳なの……
話は此なんだよ。」
夫人は小さな吐息した。
「其《そ》のね、ね。可悲《かなし》い、可恐《おそろし》い、滅亡の運命が、人たちの身に、暴風雨《あらし》
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