は、雪に南天《なんてん》の実《み》の赤きを行く……
書棚を覗《のぞ》いて奥を見て、抽出《ぬきだ》す論語の第一巻――邸《やしき》は、置場所のある所とさへ言へば、廊下の通口《かよいぐち》も二階の上下《うえした》も、ぎつしりと東西の書もつの揃《そろ》つた、硝子戸《がらすど》に突当《つきあた》つて其から曲る、……本箱の五《いつ》ツ七《なな》ツが家の五丁目七丁目で、縦横《じゅうおう》に通ずるので。……こゝの此の書棚の上には、花は丁《ちょう》ど挿《さ》してなかつた、――手附《てつき》の大形の花籠《はなかご》と並べて、白木《しらき》の桐《きり》の、軸ものの箱が三《み》ツばかり。其の真中の蓋《ふた》の上に……
恁《こ》う仰々《ぎょうぎょう》しく言出《いいだ》すと、仇《かたき》の髑髏《しゃれこうべ》か、毒薬の瓶《びん》か、と驚かれよう、真個《まったく》の事を言ひませう、さしたる儀でない、紫《むらさき》の切《きれ》を掛けたなりで、一|尺《しゃく》三|寸《ずん》、一口《ひとふり》の白鞘《しらさや》ものの刀がある。
と黒目勝《くろめがち》な、意味の深い、活々《いきいき》とした瞳《ひとみ》に映ると、何思ひ
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