隣と申しました工合《ぐあい》に、玉転《たまころが》し、射的だの、あなた、賭的《かけまと》がござりまして、山のように積んだ景物の数ほど、灯《あかり》が沢山|点《つ》きまして、いつも花盛りのような、賑《にぎやか》な処でござります。」
客は火鉢に手を翳《かざ》し、
「どの店にも大きな人形を飾ってあるじゃないか、赤い裲襠《しかけ》を着た姐様《ねえさん》もあれば、向う顱巻《はちまき》をした道化もあるし、牛若もあれば、弥次郎兵衛《やじろべえ》もある。屋根へ手をかけそうな大蛸《おおだこ》が居るかと思うと、腰蓑《こしみの》で村雨《むらさめ》が隣の店に立っているか、下駄屋にまで飾ったな。皆《みんな》極彩色だね。中にあの三|間間口《げんまぐち》一杯の布袋《ほてい》が小山のような腹を据えて、仕掛けだろう、福相な柔和な目も、人形が大きいからこの皿ぐらいあるのを、ぱくりと遣《や》っちゃ、手に持った団扇《うちわ》をばさりばさり、往来を煽《あお》いで招くが、道幅の狭い処へ、道中双六《どうちゅうすごろく》で見覚えの旅の人の姿が小さいから、吹飛ばされそうです。それに、墨の法衣《ころも》の絵具が破れて、肌の斑兀《まだら
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