、何か、雲の上の国へでも入るようだったもの、どうして、あの人形に、心持を悪くしてなるものか。」
「これは、旦那様《だんなさま》お世辞の可《い》い、土地を賞《ほ》められまして何より嬉しゅうござります。で何でござりまするか、一刻も早く御参詣《ごさんけい》を遊ばそう思召《おぼしめし》で、ここらまで乗切っていらっしゃいました?」
「そういうわけでもないが、伊勢音頭を見物するつもりもなく、古市より相の山、第一名が好《い》いではないか、あいの山。」
客は何思いけん手を頬《ほお》にあてて、片手で弱々と胸を抱《いだ》いたが、
「お婆《ばあ》さん、昔から聞馴染《ききなじみ》の、お杉お玉というのは今でもあるのか。」
「それはござりますよ。ついこの前途《さき》をたらたらと上りました、道で申せばまず峠のような処に観世物《みせもの》の小屋がけになって、やっぱり紅白粉《べにおしろい》をつけましたのが、三味線《さみせん》でお鳥目《ちょうもく》を受けるのでござります、それよりは旦那様、前方《さき》に行って御覧じゃりまし、川原に立っておりますが、三十人、五十人、橋を通行《ゆきき》のお方から、お銭《あし》の礫《つぶて》
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