この際なれば気《け》もない風で、
「夢の中を怪しいものに誘い出されて、苫船《とまぶね》の中で、お身体を……なんという、そんな、そんな事がありますものかな。」
「それでも私、」
 と、かかる中にも夫人は顔を赧《あか》らめた。
「覚えがあるのでございますもの。貴下《あなた》が気をつけて下すって、あの苫船の中で漸々《ようよう》自分の身体になりました時も、そうでした、……まあ、お恥かしい。」
 といいかけて差俯向《さしうつむ》く、額に乱れた前髪は、歯にも噛《か》むべく怨《うら》めしそう。
「ですが、ですが、それは心の迷いです。昨日《きのう》あたりからどうかなさって、お身体《からだ》の工合が悪いのでしょう。西洋なぞにも、」
 言《ことば》の下に聞き咎《とが》め、
「西洋とおっしゃれば、貴下《あなた》は西洋の婦人《おんな》の方が、私のつかまっておりました船の中を覗《のぞ》いて見て、仔細《しさい》がありそうに招いたのを、丘の上から御覧なすって、それでお心着きになりましたって。
 その時も、苫を破って獣が飛んで行ったとおっしゃるではございませんか。
 ですから私は、」
 と早や力なげに、なよなよとする
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