こへでも。」
いかにも人は籠《こも》らぬらしい、物凄《ものすさま》じき対岸《むこう》の崖、炎を宿して冥々《めいめい》たり。
「あんな、あんなその、地獄の火が燃えておりますような、あの中へ、」
「結構なんでございます、」と、また打悄《うちしお》れて面《おもて》を背ける。
よくよくの事なるべし。
「参りましょうか。靄が霽《は》れれば、ここと向い合った同一《おなじ》ような崖下でありますけれども、途中が海で切れとるですから、浜づたいに人の来る処ではありません。
御覧なさい、あの小児《こども》の船を。大丈夫|漕《こ》ぐですから、あれに乗せてもらいましょう、どうです。」
夫人は、がッくりして頷《うなず》いた、ものを言うも切なそうに太《いた》く疲労して見えたのである。
「夫人《おくさん》、それでは。」
「はい、」
と言って礼心に、寂しい笑顔して、吻《ほっ》と息。
二十六
「そんな、そんな貴女《あなた》、詰《つま》らん、怪《け》しからん事があるべき次第《わけ》のものではないです。汚《けが》れた身体《からだ》だの、人に顔は合わされんのとお言いなさるのはその事ですか。ははははは
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