》せた、同じ童《わらべ》が艪《ろ》を押して、より幼き他の児《ちご》と、親船に寝た以前《さき》の船頭、三体ともに船に在《あ》り。
斜めに高く底見ゆるまで、傾いた舷《ふなべり》から、二|人《にん》半身を乗り出《いだ》して、うつむけに海を覗《のぞ》くと思うと、鉄《くろがね》の腕《かいな》、蕨《わらび》の手、二条の柄がすっくと空、穂尖《ほさき》を短《みじか》に、一斉に三叉《みつまた》の戟《ほこ》を構えた瞬間、畳およそ百余畳、海一面に鮮血《からくれない》。
見よ、南海に巨人あり、富士山をその裾に、大島を枕にして、斜めにかかる微妙の姿。青嵐《あおあらし》する波の彼方《かなた》に、荘厳《そうごん》なること仏のごとく、端麗なること美人に似たり。
怪しきものの血潮は消えて、音するばかり旭《あさひ》の影。波を渡るか、宙を行《ゆ》くか、白き鵞鳥《がちょう》の片翼《かたつばさ》、朝風に傾く帆かげや、白衣《びゃくえ》、水紅色《ときいろ》、水浅葱《みずあさぎ》、ちらちらと波に漏れて、夫人と廉平が彳《たたず》める、岩山の根の巌《いわ》に近く、忘るるばかりに漕ぐ蒼空《あおぞら》。魚《うお》あり、一尾|舷《ふなばた》に飛んで、鱗《うろこ》の色、あたかも雪。
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==篇中の妖婆《ようば》の言葉(がぎぐげご)は凡《すべ》て、半濁音にてお読み取り下されたく候==
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[#地から1字上げ]明治三十八(一九〇五)年十二月
底本:「泉鏡花集成4」ちくま文庫、筑摩書房
1995(平成7)年10月24日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第九卷」岩波書店
1942(昭和17)年3月30日発行
※誤植の確認には底本の親本を参照しました。
入力:門田裕志
校正:土屋隆
2006年11月15日作成
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