しか》れども斯《かく》の如《ごと》きはたゞ一部、一篇、一局部の話柄《わへい》に留《とゞ》まるのみ。其実《そのじつ》一般の婦人が忌むべく、恐るべき人生観は、婚姻以前にあらずして、其以後にあるものなりとす。
渠等が慈愛なる父母の掌中を出《い》でて、其身を致《いた》す、舅姑はいかむ。夫はいかむ。小姑《こじうと》はいかむ。すべての関係者はいかむ。はた社会はいかむ。在来の経験に因りて見る処のそれらの者は果していかむ。豈《あに》寒心すべきものならずや。
婦人の婚姻に因りて得《う》る処のものは概《おほむ》ね斯の如し。而《しかう》して男子もまた、先人|曰《いは》く、「妻なければ楽《たのしみ》少く、妻ある身には悲《かなしみ》多し」とそれ然るのみ。
然れども社会は普通の場合に於て、個人的に処し得べきものにあらず。親のために、子のために、夫のために、知己親類のために、奴僕《ぬぼく》のために。町のために、村のために、家のために、窮せざるべからず、泣かざるべからず、苦まざるべからず、甚《はなはだ》しきに至りては死せざるべからず、常に我《われ》といふ一個簡単なる肉体を超然たらしむることを得で、多々《おほく》
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