お花見雜感
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)彼地《あちら》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)全體|彼地《あちら》では

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から6字上げ]明治四十三年四月

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)つい/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 四五年といふもの逗子の方へ行つてゐたので、お花見には御無沙汰した。全體|彼地《あちら》では汐風が吹くせゐか木が皆小さくて稀に二三株有つても色も褪せて居るやうだから、摘草などをこそすれつい/\花を見る事は先づすくないのである、と言つて花時に出ても來ないし、愈々以て遠々しくは成つたものの、何もお花見だからと言つて異裝なんかする事はさう別に奬勵するにも及ばなければ、恐しく取緊る事もないと思ふ。さうしなければ樂めないといふ譯もなし、普通の身裝《みなり》で普通の顏で、歡樂を擅にする事ができるのだから。
 近來櫻花の下を通る女の風俗を見るに、どうも物足りない點がある、花に對する配合が惡い。たとへ
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