はいづれも附物だが、ほんとうに花を見ようといふなら、明方の櫻か、薄月でもあつて、一本の櫻がかう明るいやうな所を見るにあると、言ふものの半ば御多分に漏れない、活きた花を見るのだが、陰氣な顏をして理窟を言つたり、くすんだりして見るよりは、派手に陽氣に櫻と競つて花見をしたら、萬都の美觀を添へるだらうと思ふ。
 要するに櫻の下に行交ふ女が黒つぽいと言つて、素人らしくないといふ意味では決してない。が何も御自分勝手にさういふ風をなさるのも、異裝をするのも惡い事ではない。どんな事をしても、お樂みがあれば夫でよい譯だが、庇髮に金ピカの三枚櫛なんてものは、其上に櫻は決して調和したものではない。
 たとへば第一歩く振なり容子なり、甚だ美しくなくなつた。落花の黒髮にかゝる風情、袂や裾に散る趣きも、今では皆がいきなり手を出して掴むぐらゐな意《つもり》でゐる。
[#地から6字上げ]明治四十三年四月



底本:「鏡花全集 巻二十八」岩波書店
   1942(昭和17)年11月30日第1刷発行
   1988(昭和63)年12月2日第3刷発行
※題名の下にあった年代の注を、最後に移しました。
入力:門田裕志
校正:鈴木厚司
2003年5月18日作成
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