るやうな氣がするから……」と、それまでのKの努力と心の惱みを深く知りながらも、思はず私はさう答へ返した。
「寂しいね……」と、Kは呟いた。
「寂しいね……」と、私も同時に呟いた。
 何時か雨もよひの空になつてゐた。濃い霧は更け渡つた夜の町を深く、しつとりと包んでゐた。そして、その中にすべての街路の燈灯が涙を含んだやうに潤んだ光を投げてゐた。――Kと私とは暗い路上に視線を落したまま、詞もなく、あてど[#「あてど」に傍点]もなく歩き續けて行くのだつた。



底本:「若き入獄者の手記」文興院
   1924(大正13)年3月5日発行
入力:小林徹
校正:柳沢成雄
2000年2月19日公開
2006年1月11日修正
青空文庫作成ファイル:
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