やアどういふ奴だつたね?」
 と、ソオルはひどく熱心に尋ねかけた。
「さやうさ、四時に十分ほど前でした。」
 と、集配人は考へ考へ話し出した。
「ここへ配達にやつて來て、溜間《ロビー》に郵便物を置くとすぐ表へ出ましたが、途端に一臺の自動車が入口の正面に止まつたんです。何しろひどい雪降りで十分には分りませんでしたが、どうも辻自動車だつたやうで、中から一人の男が降りてくると入口の方へ歩いて行きました。そして、ふと扉の所に立ち止まると車の中の誰かに聲を掛けたやうでしたが、その時あたしは歩き出してましたんで‥‥」
「外には誰も車から降りて來なかつたかね? そして、門番は入口にゐたやうかね?」
 と、ソオルの問ひに集配人は首を振つて、
「いいや、門番はをりませんでしたよ。それから他には誰も降りて來なかつたやうです。何しろちやうど歩き出してたんで、その男の顏もよくは見ないやうな譯なんで‥‥」
 何か犯人の人相風體を聞き出さうと必死になつてゐたソオルは、可成りがつかりした樣子だつた。が、その辻自動車に乘つて來たといふだけでも正に絶好の手掛りだつた。
 次の刹那、ソオルは電話器に飛びついて、グスタフソン警視を呼び出し、いろいろの發見や自分の斷案をてきぱきと語り傳へた。すると、今度は警視の方で何か話し出した樣子だつたが、ソオルの顏は急に緊張した。
「は、は、早速出掛けることにします。」
 と答へて、ソオルは手荒く受話器を掛けるや否や部長に張番のことを命じ、ひどく氣ぜはしげな樣子で門口を出て行つた。

    青天の霹靂
 吹雪の夜、ソオルの乘つた警察自動車は十五分ばかりでストックホルムの中心地、上流人士の集ふ料理店テグネルの電光映え輝く玄關に横づけになつた。早速支配人に面會を求めると、優雅な音樂の響き漂ふ大食堂の方を眺めながら、ソオルは溜間《ロビー》の一隅で首を長くしてゐた。と、やがて支配人が姿を見せて、
「これはこれはソオル樣で? そのお品はたしかに事務室の方に保管してございます。」
 案内されて事務室へはいると、机の上にハトロン紙で包んだ物が横たへてあつた。可成りな重さ、開いてみると、長さ半メートル餘の鐵の管で、綺麗に拭ひ取らうとした形跡が見えたが、端の方になほ血が殘つてゐた。
「三十分ほど前でしたか、殿方の手洗所でこの品を見つけましたんで‥‥」
 と言つて、支配人は誰が持つて來
前へ 次へ
全18ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南部 修太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング