大な發見があつたら、時を移さず電話を掛けてくれ給へ。さつきも言ふ通り、この際緊急事は一刻も早い犯人の捕縛だよ。」

    意外な展開
 三十分ほどの後、ソオル主任警部は銀行の一室で尋ねる行員と膝を突き合せてゐた。行員はその日のゼッテルベルグ老人の樣子をあらまし語り終ると、何の用事でどこへ行つたかは分らぬが、その時老人がすぐ近所の町角に駐車してゐる辻自動車に乘つたといふことを傳へて、ひよいと傍の窓を開くと、
「あア、あすこにゐるあの自動車ですよ。」
 その詞に躍り上つてそこへ駈けつけると、ソオルは件の辻自動車《タクシー》運轉手ヘルベルグを發見した。早速老人の人相を語り聞かせると、運轉手は合點しながら、
「ヘエたしかに乘せましたよ。人相もよく覺えてまさア。おつしやる通り先週の木曜のお晝過ぎでしたが、北マラアストランド街の素晴しい屋敷まで行きました。何でもフオン・シイドウ男爵を訪ねるんだが、おいでになるかななんて言つてでした。」
 どきりとして、ソオルの顏は思はず固くなつたが、その驚きの色はうまく胡麻化してしまつた。ヤルマア・フオン・シイドウ男爵と言へばスウェーデン切つての金持で、大資本家の一人だつた。
「やア、どうも有り難う。」
 と、さりげなく言つて、ソオルはその町角を立ち去つた。
 一町場ほど行くと、ソオルは別の辻自動車を北マラアストランド街へ急がせた。車中、ソオルは胸の中に自問自答しつづけた。音に聞えた富豪の男爵と名も無い金貸の老人との間にいつたいどういふ繋りがあるのか? 例の金庫の中にも二人の關係を示すやうな何物も見當りはしなかつた。況してやモルトナス島のあの兇惡な慘劇とストックホルムの富の王者とを結びつけるなどは?
 北マラアストランド二十四番街、宏壯な五階建てのアパアトメント・ハウス、その三階の八室全部を領するシイドウ男爵家、程なくソオルが、そこの玄關に案内を乞ふと、暫くして戻つて來た若い小間使は、男爵が書齋で面會する旨を傳へた。
 ソオルは廊下を通り、豪奢に華麗に飾りつけた應接間を横切ると、やがてちよつとした部屋へはいつて行つた。すると、もう老年に近い、丸顏の人間が裝飾的な彫刻のある机を前にして、背中の高い椅子に大きな體をゆつたりと凭せてゐた。そして、表情のない眼でぢつとソオルの方を見守りながら、
「どういふ御用向きかな?」
 ソオルはモルトナス島の慘劇
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